東京地方裁判所 昭和56年(ワ)5180号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【説明】
請求の原因の要旨は、次のとおりである。
1 原告は訴外有限会社鈴木運送及び被告鈴木保男との間の昭和四八年八月三一日付取引契約並びに被告鈴木との間の「件外土地」についての同年九月五日付及び「本件建物」についての昭和五〇年六月九日付各根抵当権設定契約に基づき、件外土地については昭和四八年九月七日に、本件建物については昭和五〇年六月二五日にそれぞれ極度額を三〇〇万円とする根抵当権(以下「一番抵当権」という。)設定登記を受けた。その後、右根抵当権の極度額は昭和五一年二月四日には金八〇〇万円に、昭和五二年六月七日には金一三〇〇万円にそれぞれ変更された旨の登記が経由された。
2 また原告は被告鈴木との間の昭和四三年八月二七日付取引契約並びに件外土地についての昭和五〇年三月一四日付及び本件建物についての同年六月九日付各根抵当権設定契約に基づき、件外土地については昭和五〇年三月一七日に、本件建物については同年六月二五日にそれぞれ極度額を二六〇〇万円とする根抵当権(以下「二番抵当権」という。)設定登記を受けた。
3 次いで、原告は鈴木運送及び被告鈴木との間の昭和四八年八月三一日付取引契約並びに被告鈴木との間の昭和五四年一月二〇日付根抵当権設定契約に基づき、件外土地及び本件建物について同年一月二二日に極度額を五〇〇万円とする根抵当権(以下「四番抵当権」という)設定登記を受けた。
4 原告は、右一番及び四番各抵当権で担保されるべき債権として、次の(一)及び(二)の債権を有している。
(一) 原告は前記1及び3記載の各約定に基づき、昭和五五年中に鈴木運送に対し被告鈴木の連帯保証のもとに一二通の約束手形を割り引いたが、鈴木運送は同年六月二八日に銀行取引停止処分を受けたことにより、原告は鈴木運送に対し右各手形の買戻債権及びこれらに対する同年七月一日から支払ずみまで年一九パーセントの割合による損害金債権を取得したところ、右各手形の買戻債権の残元金は金一三三六万二四二八円である。
(二) 原告は前記1及び3記載の各約定に基づき、鈴木運送に対し被告鈴木の連帯保証のもとに昭和五一年一〇月三〇日に金六九〇万円を(1)利息年一一パーセント、(2)損害金年一九パーセントその他の約定で貸付けたところ、残元金五〇万九九九〇円及びこれに対する同年一一月二〇日から支払ずみまで年一九パーセントの割合による損害金債権が残存している。
5 原告は前記二番抵当権で担保されるべき債権として、以下に述べる債権を有している。すなわち、原告は、前記2の約定に基づき、昭和五〇年七月三一日に被告鈴木に対し、金二六五〇万円を(1)利息年11.25パーセント、(2)損害金年一九パーセント、その他の約定で貸付けたところ、残元金二二〇九万八一〇八円及びこれに対する同年七月四日から支払ずみまで年一九パーセントの割合による損害金債権が残存している。
6 本件建物及び件外土地に対する債権者中小企業金融公庫、債権額金一〇〇〇万円の抵当権(以下「三番抵当権」という。)の被担保債権については、残元金六三七万円及びこれに対する同年六月二六日から支払ずみまで年14.5パーセントの割合による損害金債権が残存している。
7 原告は昭和五五年八月に、前記4(一)及び(二)並びに5記載の残存債権につき件外土地及び本件建物に対し、前記1ないし3記載の各抵当権実行のための競売申立を東京地方裁判所にしたところ、同月一四日不動産競売手続開始決定がなされ、第一回入札期日は同年一一月一〇日、最低競売価額は金五九七四万円と指定された。
8 しかるに、本件建物に対し、被告鈴木と被告眞本和子との間において昭和五五年七月一二日設定、賃料月五万円、期間三年譲渡転貸のとする本件短期賃貸借契約が存し、これを原因とする賃借権設定仮登記がなされているため、右入札期日に入札者がなかつた。その後第二回入札期日(昭和五六年二月一六日)最低競売価額五三七六万円、第三回入札期日(同年四月二〇日)最低競売価額四八三四万円、第四回入札期日(同年七月一三日)最低競売価額四三五〇万円となつたが、いまだ入札者がない。したがつて、本件賃貸借は抵当権者である原告に損害を及ぼすことは明らかである。
9 よつて、原告は民法三九五条但書に基づき、被告らに対し本件賃貸借の解除並びに本件仮登記の抹消登記手続をすることを求める。
【判旨】
二請求原因事実について
1 <証拠>によれば、請求原因第1ないし第3項の事実を認めることができる(件外土地及び本件建物について原告主張の登記がなされていることは、原告と被告眞本との間に争いがない。)
2 <証拠>によれば、請求原因第4項(一)(二)第5及び第6項の各事実をそれぞれ認めることができる。
3 <証拠>によれば、請求原因第7項の事実を認めることができる(同第7項のうち、原告が有する残存債権を除く各事実はいずれも原告と被告眞本との間に争いがない。)
4 <証拠>によれば、請求原因第8項のうち、被告両名間における短期賃貸借契約が抵当権者に損害を及ぼすことを除くその余の事実を認めることができる(右短期賃貸借契約の存在及びその仮登記の経由並びに各入札期日及びその最低競売価額の各事実はいずれも原告と被告眞本との間に争いがない。)。
5 そこで本件賃貸借が抵当権者である原告に損害を及ぼすかについて判断する。
以上1ないし4認定の事実並びに<証拠>によれば、本件土地建物の最底競売価額は、当初金五九七四万円と一番ないし四番の各抵当権の被担保債権額を上回る金額が定められていたが、競売期日において競買の申出がないため、漸次最低競売価額が引き下げられ、第四回競売期日においては金四三五〇万円にまで低下した結果、右最低競売価額は、原告らが有する一番ないし四番の各低当権の被担保債権の合計額(元金四二三四万〇五二六円に各遅延損害起算日から本件口頭弁論終結時までの損害金を付加した金額)を下回る額となつたこと、最低競売価額が右のとおり下落したにもかかわらずいまだ競買申出人が現われていないこと、本件賃貸借は、賃料が一か月五万円と本件建物の価額に照らし低廉でかつ予め賃貸借の譲渡、転貸を認めるという特約があつて、競落人に著しく不利益な内容であること、本件賃貸借はその設定の仮登記こそ競売開始決定前に経由されたものの、競売手続における執行官による賃貸借取調の際には本件建物に居住者又は占有者は存在せず、被告の夫である「眞本時範」名義の門標のみが掲げられていたにすぎなかつたため、執行官は賃貸借の存否不明との報告書を提出していることが認められる。
また<証拠>によれば、本件賃貸借は賃料が前払いされており、かつ金一九〇〇万円という高額の敷金が支払われていることが認められるが、賃料前払いは登記されていない以上、競落人に対抗できるものではないし、また競売手続で賃貸借の取調に際し、その存否が不明で、敷金額も全く公示されていない場合に競落人が当然に敷金返還義務を負うとは解されないから、賃料が前払いされており、また高額の敷金が授受されているという事実をもつて抵当権者に直ちに損害を及ぼすものということはできないものの、右事実は、本件賃貸借がまさしく抵当権者を害する目的をもつて行なわれた詐害的賃貸借であることを推認させるに十分であるというべきである。
したがつて以上認定の最低競売価額の下落及びその価額と被担保債権額との相関関係、本件賃貸借の内容及びその設定経緯等に照らせば、本件賃貸借は抵当権者である原告に損害を及ぼすものということができる。
(吉野孝義)